コラム

覆面記者日記③―分析肌の‘異色’若手経営者、橋本 健一郎氏

• 2010/06/07

■橋本 健一郎さん紹介の前に、記者からの一言


 金属スクラップ業界の世界に記者として飛び込んでから、約4年半が経過した。現在はフリーランスの記者のような形で動いているが、やっていることは前とあまり変わらない。ただ、いったん組織を離れると、以前と違って微妙に距離を置く人や連絡が取れなくなる人もいる。もちろん記者という職業は、基本的に多少は警戒されるものだ。業界にどっぶり浸かってしまうと精神的には楽だが(オフレコ情報の蓄積)、いい記事が書ける可能性(あくまでも可能性)はそこで消失してしまう。
 
 人脈の喪失は決して気分のいいものではないが、記者としてそこから学ぶ点は多い。厳しい境遇に立たされた時に、自分の支えになってくれる人か離れていく人かは、実際に、リアルな現実としてそういう場面に直面しなければ分からない(ある程度の予測は可能だが)。それほど親しくなかった人でも親身に相談に乗ってくれたり、手助けしてくれたりする‘嬉しい誤算’がある一方、割と親しく情報交換していた人が急によそよそしくなり、時には距離を置くケースもある。もちろん以前と変わらず、いやそれ以上に親身に接してくれる人もいる(これなどは大変有り難い)。
 
 いずれにしても、人にはそれぞれ事情や置かれている立場があり、一概に善し悪しを論じることは出来ない。そもそも一個人が論じる善し悪しなど、必ず自分に都合のいい主観や理屈が入るもので、私自身も厳に戒めなければならないと思う。

 「去る者は追わず、新しい人間関係を再構築する」。これが私の課題であり、テーマでもある。
 特にこれからは、未来を切り開くエネルギーと力を持った若手(30~40歳台)を意識的に取材していきたいと考えている。高度経済成長期のような爆発的な需要はもはや見込めず、少子高齢化が進行する今の日本の将来に対しては、どうしてもネガティブなシナリオが頭をよぎってしまう。それでも、未来に希望を見出せるようなエネルギーを放つ人物に触れていきたいと思っている。

■分析肌の‘異色’若手経営者、橋本アルミ㈱取締役の橋本 健一郎氏

 橋本アルミ株式会社(本社:大阪市浪速区桜川)取締役の橋本 健一郎さん(写真1)とは、4年来の付き合いとなる。新人の頃の「電気銅」や「1号ピカ線」(写真2)の意味すら分からない私に、懇切丁寧にヤードを案内しながら商品説明してくれた記憶が今でも残っている。橋本金属株式会社(現在、同社に出向中)を訪れた際は、今でも必ずヤードを見学し、珍しい品目(写真3)を見つけては橋本さんに聞いたりしている。

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(写真1)橋本 健一郎氏

 橋本さんは大学卒業後に橋本アルミ㈱に就職し、しばらく現場作業に従事していた。非鉄アイテムの選別・分類(込み真鍮を砲金と真鍮に分けるなど、写真4)、フォークリストやパワーショベルなど重機の運転・操作は、「とても新鮮で面白かった」と述懐する。20代の時期は、とにかく貪欲に問屋業のイロハを吸収していった。
 
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(写真2)出荷前のピカ線・プレス             (写真3)銅・鉄混じり粉(山行き)

 充実した日々を送る中、橋本さんは現状の問屋業に疑問を感じることがあった。仲間通しで交わしている話を聞くと、目先の相場観についてほとんど経験や勘に頼った内容が多く、客観的な根拠に乏しいことに気付いた。スクラップ業界では「仕事は現場の中で身体で覚えていく」のが基本で、体系だったマニュアルも入門書の類も皆無だった。
 「これでは我々の業界に優秀な人材が来てくれない」橋本さんは切実な危機感を持つようになった。

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(写真4)選別前の込み真鍮
 
 橋本さんは、「まずは最初に自分がもっと勉強しなくては」と考え、業務が終わった17時以降も事務所に一人残り、統計資料や大学時代に使った経済学や経営学のテキストを紐解いて、毎日2時間程度、勉強に充てた(2005年頃から)。そして現場から得られるリアルな相場・需給情報と客観的なデータ(国土交通省発表の新設住宅着工件数や自動車工業会発表の自動車生産台数など)を突き合わせて、相場の傾向や展望を予測するようになった。

 現在の橋本さんは、会社経営の傍ら、大阪非鉄金属商工協同組合・青年部会の会長を務め、講演も多数こなすなど、多忙な日々を送っている。業界紙には橋本さんの相場見通しが頻繁に紙面を飾り、2010年4月には日経産業新聞にもインタビュー記事が掲載された。
 
 「我々の業界は、ただ商品を右から左に流すだけの商売ではなく、リサイクル業という側面があり、地球規模での環境問題が叫ばれる中、とてもやりがいがあって社会貢献ができる仕事です」橋本さんは胸を張ってそう力説する。外に開かれた業界を目指す橋本さんは、ただ口で言うだけでなく、「自分に一体何が出来るのか」を自問自答し、それを忠実に実行してきた。今やスクラップ業界を代表する「ニュー・リーダー」の一人となった橋本さんの活躍を、今後も見守っていきたいと思う。
 
(下部 賀一)

(参考URL)

・橋本 健一郎オフィシャルブログ―ほぼ夕刊 メタルなレポート
http://ameblo.jp/metalingreport/

・「国際レアメタル&リサイクル研究会」(IRRSG)のコラムに、橋本氏の「ほぼ月刊メタルなレポート」(銅・銅合金編とアルミ編)がアップされています。
http://www.irrsg.com/

・覆面記者日記①―2008年冬の「あいりん地区」パート1
http://www.mrb.ne.jp/newscolumn/2053.html

・覆面記者日記②―2008年冬の「あいりん地区」パート2
http://mrb.ne.jp/newscolumn/2063.html